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愛を両手に

2017年1月13日、家族に見守られる中、祖母が永眠いたしました。

祖父母の家は実家からとても近くにあり、子供の時から何度も遊びに行ったことを憶えています。

大学卒業後、工芸の専門学校に入った私は祖父母の家に部屋を借り、その後8年弱ほど住まわせてもらっていました。

「家に若い男がいると老人にとっては安心」なんて言ってもらえることに甘え、借りてた部屋を工房に改造しながら技術を磨く日々。

時に祖母の願いで身の回りの不便を直したり、逆に作業の音で迷惑をかけてしまったり。

それでも祖父と一緒に私のやりたいことを嫌味なく応援してくれていたように思います。

現在の山梨の工房を手に入れる時にも、祖父母からは大きな支援をいただいており、私の人生の一番大事な部分を支えてくれました。

思うところすべて書きこみたいところですが

「ありがとう」

この言葉にすべての気持ちをこめて。

祖母はしっかりした人で、自身の死後の銀行、保険、年金などの諸々の手続きをほとんど済ませていました。

同時に形見分けとして、手持ちのジュエリーや日用品などを親族に分けて配っていました。

私も以前、金のコインがはめ込まれた指輪を一つ形見分けとしてもらっていたのですが、今年に入ってから新たに別のものをいただく機会がありました。

それがこちら。

これは18金のフレームで出来た眼鏡です。

オシャレだった祖母は着物やこういった小物にお金をかけて揃えていました。

ジュエリー類はそのままでも使えますが、眼鏡となると度が合わなければ使えないしデザインもジュエリー以上に人を選びます。

私なら金の部分だけ溶かして使えるだろうということで私のところに回ってきた次第です。

勿体ない気もしましたが、早速私は眼鏡を分解し、金で出来た部分だけを取り出してひとまとめにしました。

取り出した金はおおよそ32g。

金の価格が高騰した今では10万円以上の価値になる重量です。

このまま資産として眠らせておくこともできましたが、少し考えがありました。

これは今年1月、東京ビッグサイトで行われた国際宝飾展で手に入れたルースです。

透明度の高い綺麗なピンク色のローズクォーツ。

カットはハートのダブルカボションになっています。

これに合わせて作ったのがこちら。

まず銀でマスターを作り、ゴム型を取って複製できるようにしました。

今度は複製したものを再度鋳造。

ここで形見の眼鏡から取り出した金を使いました。

同じ形状のペンダントトップを4つ作りました。

この本体に先ほどのローズクォーツを留め、表面を仕上げ完成したものがこちら。

出来上がったものは私の母と二人の叔母、それと祖母の入院に際し大きな助けとなった看護士

の従姉妹へとプレゼントしました。

資産として私の懐に金を死蔵してしまうより、こうして普段身に付けられるものとして家族に持っていてもらった方が祖母も喜ぶだろうという思いで作りました。

これは私にしかできない供養の方法だろうと。

デザインは祖母の好きだったもの、祖母を思い出せるものということで考えてあります。

正面からの見た目は着物の襟を合わせた形状に朝顔を彫り込んでみました。

日本舞踊を嗜み、朝顔市で朝顔を売っていた祖母の若かりし頃を偲んでの意匠です。

ハートカボションの石は襟と上部の爪で留まっており、石を透かして奥に彫り込んだ文字が浮き上がって見えるようにしてあります。

彫り込んだ文字は「幸」

祖母の名前の「幸子」からいただいた一文字です。

年の割にはピンクやハートといったファンシーな物も好きだった祖母を思って石を留めました。

また全体の形状は鳥がその羽で石を抱きかかえているようにも見えます。

祖母は美空ひばりが大好きだったので「ひばり」から鳥の形状をデザインに取り込んだ形になります。

祖母を知る人ならデザインの意味は伝わりますし、そのことで祖母のことを思い出すきっかけとなってくれれば幸いです。

最後に、こういった遺品を利用した作品にタイトルを付けるのもどうかと思いましたが、とても琴線に触れる事柄があったので敢えてタイトルを付けたいと思います。

「愛を両手に」

この言葉を作品タイトルにします。

2017年2月8日にACIDMANの新曲としてリリースされた同名の曲があります。

元々ACIDMANは大好きでアルバムもほぼすべて持っているのですが、今回の新曲はあらゆる意味でタイムリーでした。(タイムリーという言葉が適切かは別として)

この曲はボーカルの大木伸夫さんが一昨年亡くなった祖母を思って作った曲です。

「祖母は幸せだったろうか。そうであってほしい。」

そんな思いが込められたこの歌は、私がちょうどペンダントトップの制作中に発売となりました。

記事を読んで気になった方は是非聴いてみてほしい。

いなくなってしまった自分の大切な人に重ねて、その人の幸せを願ってほしいと、そう思います。

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